2012年2月5日日曜日

デザインの輪郭

深澤直人氏の「デザインの輪郭」を読みました。



自分は2年前からiPhone/iPadアプリの制作をするようになってから、ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンスというものに対して熟慮を重ねる事が、ほぼライフワークの様な日々になってきました。


未だそんなに誇れる様なUIを生み出せているわけではないので、ただ悶々としているだけなのですが・・・それでも日々、どうすれば自分のアプリのUIが今よりマシになるか、という事に思いを巡らせています。


そんな日々を過ごす中で、インダストリアルデザインに強い興味を持つようになりました。


もともと家具や家電などに対して興味が強い方だと思ってはいたのですが、自分が好きなデザインのプロダクトがどの様なプロセスで、どの様な根拠に基づいて制作されてきたか、といった部分にはあまり触れてきませんでした。


何故、いまインダストリアルデザインに興味が出たのかというと、iPhone/iPadアプリのUI/UXを考える上で、リアルなプロダクトにヒントを受ける事がとても多い事に気づいた為です。


確かにAppleのHuman Interface Guidelineに照らし合わせてUIをデザインすることは必要不可欠だと思いますが、そこに留まらず、アプリを使うユーザーの事を考え「なぜそのボタンをそこに配置するのか」深く思慮する事が最も重要だと考えるようになりました。


この様な考えに至る過程で、ショップ等で家電やステーショナリーなどのプロダクトを手にとった時の自分の視点にかなり変化がありました。
これまでは単にカッコいい/カッコ悪い、欲しい/要らない程度の観点でプロダクトを眺めていましたが、「なんでこのボタンがここに付いてるんだ?」「なんでここはアールが付いてるんだ」と、プロダクトデザイナーがその製品に込めた意図を、読み取ろうと思う事が多くなりました。


と、前置きが長くなってしまいましたが、プロダクトデザインが自分の中でブームになっており、プロダクトデザイナーという職業について良く知りたいと思っています。


深澤直人氏といえば、日本を代表するプロダクトデザイナーで、彼の作品は私の身近なところではauのINFOBARとか超有名ですね。


↑このINFOBAR2は大好きで、いまだに目覚まし時計として使ってます。


他にも無印良品の壁掛けCDプレーヤーとか


±0のHumidifierとか


マルニ木工のHIROSHIMAとか


LAMYのnotoとか


まさに枚挙に暇がないですね。


さて、この「デザインの輪郭」という本ですが、読んでみて本当に良い本でした。
内容は、深澤直人氏が自らのデザイン観について綴っているものですが、デザイン論を展開する様な内容ではなく、どちらかというと随筆集の様な構成です。




読みだして始めのうちは非常に抽象的な表現が多く、何を伝えようとしているのかいまいち掴めない気がしましたが、注意深く読んでみると、氏のデザイン観が垣間見える気がします。


本当に垣間見える程度で、一度読んだくらいではその全てを理解する事は出来なかったのですが、非常に刺さった部分が2つほどありました。

ものとその周りにある環境との関係が、そのものの輪郭を決めていく。その輪郭を見いだすのがデザイナーの仕事であるということがわかってきた。その輪郭とそこに加わる双方の力を見いだせば、それによって表面の力が自然と規定されていく。自然と張りが見えてくるということがわかってきた。「張り」という言葉を掘り下げて考える機会を得たことによって、デザインを深く考えることが出来た。深澤直人「デザインの輪郭」より引用

深澤直人氏のデザインには「張り」というコンセプトがあり、上述のINFOBARやHumidifierなどの製品からもそのコンセプトが見て取れます。この「張り」というコンセプトを掘り下げていく中で、自らのデザイン論に辿りついたというエピソードです。


「張り」というのは、物体の状態を表しているものですが、単に造型を指しているのではなく外圧に対してそれを押し返そうとする内圧とのバランスによって、「張り」という美が成立するという事です。


つまりプロダクトとユーザーの関係性こそが「デザイン」なのであり、その両者のバランスを伴わない機能はデザインとして成立していない、という事になるでしょうか。当たり前な事ですが、ついつい「Human Interface Guideline上はこうだから」とか「他のアプリはみんなここにボタンがあるから」とか短絡的な根拠で、デザインを決定していた事が自分には少なからずあります。

僕も、かつてはふつうじゃないものをつくろうとしていたわけですね。デザイナーというものをそういうのものだと思っていたから。特殊なものをつくろうとしていたときに、「やっぱりふつうのものがいいな」と思って、開き直った。いろいろな製品なり、デザインを自分なりに評価してみて、こぼれ落ちていく砂の中で最後に残るものってわすかでしょ。それが、最もふつうで、いいものというか…。深澤直人「デザインの輪郭」より引用

これもデザイン観に関する記述の一部ですが、深澤直人氏のミニマリズムを表していると思います。


今まで自分がアプリの機能を設計してくる中で、競合製品との差別化の為に、どうしてもより多くの機能を盛り込む事に志向しがちでしたが、プロダクトをデザインしているという事を意識するようになってから、ミニマリズム、全体最適という事を強く意識するようになりました。


製品を作る立場になると、その製品のプロモーションやメディアへの露出を意識して、ついつい人目を引くような特別な機能、キャッチーな要素に目が行きがちになります。しかし世の中の人々に愛され続けているプロダクトを見回してみると、どれも「これ以外の形は無いだろう」と思えるくらいシンプルな物ばかりです。


「ふつう」の製品を目指すのは本当に勇気の要る事だと思いますが、他の製品よりも多くの機能を持つのではなく、他の製品よりも速く動作する製品でもなく、本当に指先に馴染む「ふつう」の製品を作ってみたいですね。